オーナーのこだわりと、デザイナーが一緒に歩むために

企業

株式会社 セルクル

デザイナー

3KG

セルクルは、札幌の繁華街すすきのに店舗を構える飲食店「ブラッスリー・セルクル」のオーナー・きむらまどかさんが手掛けるブランドです。シュークリームが人気の「スイーツ・セルクル」として全国の催事に出店するほか、百貨店のお歳暮のカタログなどに商品が掲載されています。 食品添加物を使わず、原材料は全て公開するなど、食に対する強いこだわりを持っています。

デザイナーに想いが伝わらない……

セルクルの代表きむらまどかさんは、デザインコースが始まる前のトークイベントにご参加くださいました。トーク後の質疑応答の時間にきむらさんが質問してくださいましたが、その内容は以下のようなもの。「デザイナーにお願いしても、自分のイメージに合った案が出てこない。どうすればよいのでしょう?」これは難しい質問です……。

第1回目の面談は、その質問の話から始まりました。セルクルは食品添加物を一切使いません。また、原材料を全て公開するなど、食べるものが体をつくるということに強いこだわりをお持ちです。一方、フランス料理の料理法をベースに、ドミグラスソースをつくる手法を応用してシュークリームをつくったり、ラーメンスープの開発を手掛けるなど、柔軟な考えの持ち主で、全てがフランス料理の枠内に収まらなければならないとは考えていません。

ブランディングは見え方を統一していく行為ですから、セルクルはフランス料理店、洋菓子メーカーとまとめるとわかりやすいのですが、きむらさんの次々と湧き出てくるアイデアや人柄は、「素敵なフランス料理店」という枠組みに収まりきっていない印象を受けました。きむらさんはなんだか窮屈そう。そのあたりが「デザイナーがわかってくれない」という思いが生まれた原因かもしれません。

デザイナーがわかってくれないのか
私の言っていることが意味不明なのか

デザイナーとのコミュニケーションについて考える前に、まずはセルクルが何を目指しているのかを整理します。仕事に関わりのない話しも交えながらセルクル全体を整理していくうちに、いくつかの課題が見えてきました。

まず「セルクル」「ブラッスリー」などフランス語が用いられることで、コミュニケーションが少し遠くなっています。セルクルを英語にするとサークル(木村円という名前に由来しています)。そしてブラッスリーを翻訳すると「居酒屋」。つまり「ブラッスリーセルクル」をやや乱暴に言い換えると「居酒屋まどか」になるわけです。このふたつの伝わり方のスピードや情報量の違いとどう向き合うかがひとつめの課題です。

こだわりの伝え方。セルクルを語る上で欠かせないキーワードとして「脱水技術」があります。じっくりお話を伺うと、素材を煮詰めてソースをつくるフランス料理の伝統的な技法のことを指しています。水分を減らすことで腐敗しづらくなる。これは食品添加物を使用しないこととも大いに関わっています。しかし「脱水技術」と聞いて「上手に脱水するとおいしくなりそう!」と感じる方はきっと少ないでしょう。どことなく工業的な匂いがします。北海道産原材料を使い、原材料を全て公開する姿勢で、食品添加物を使用せずに製造している。隅々まで行き届いたこだわりが、美味しさを感じさせるように伝える工夫が必要です。

さて、ここまで整理ができればデザイナーとの会話が変わってくるはずです。ブランドを立ち上げる時点では何も実績はないので難しいのですが、それでもやはり5年後、10年語を見据えてブランディングすることが必要でしょう。そして、開業後は5年あるいは10年でブランディングを見直すことも必要なのかもしれません。